あるイベントに参加するために朝5時過ぎに起きて飛行機に乗って東京へ。元々予定が入っていたのをリスケできてはいたのだけれど、ここ一週間ほど、疲れか花粉症かはたまた喘息か、体調がすこぶる悪く、当日起きることができ、尚且つ体調がよければ行くということにしようと思っていた。ちょうど一週間前の土曜日も(主催の)大きなイベントがあって(たぶんその反動で体調が悪い)、毎週毎週心身ともに負荷の大きなものに参加していると自律神経がどうにかなってしまいそうだという心配もあった。などと思っているうちに、私の研究との関係で、どうしてもこれは見ねばという展示の存在を一昨日ぐらいにTwitterで知り、会期が明日までということで、無理を押してでも行くことにした。実際、起きてみると咳は出るが身体のだるさはなかった。随分前に知人から喘息に効く漢方薬をもらっていたことを思い出し、水道水で飲む。数錠カバンの中に忍ばせ、効いている効いていると思い込ませつつ家を出た。
羽田空港のマクドナルドでソーセージエッグマフィンを食べて恵比寿へ。ここ三年ほどなんだかんだで一年に一回は来ている気がする。相変わらずしゃれとんしゃーね、と思いながら動く歩道を歩く。ヱビスがまた恵比寿でビールを作り始めました、というポスターを見かけたが、そもそも一度目を知らない(後々調べてみると恵比寿という地名はヱビスビールが由来とのこと)。見たかった映像作品の開始時間ぎりぎりに滑り込むことができた。今日は余裕がないので詳細は省くが、わざわざ無理を押して見に来てよかった。作家と研究者という違いはあれども、同じようなことを考えている人がいるということに、この方向性で私は間違っていなかったんだ、孤独じゃないなと後押しされた気持ちになったし、その上で、私が研究者として何が書けるか/できるかということを考えねばと背筋を正された。急いで五反田へ向かう途中にもう一度見たヱビスのポスターは来た時と違って見えた。
開場してほんの少し経ったぐらいにイベント会場に着く。ここ数ヶ月、研究や生活の傍らでデザイン作業を行なっていた同人誌の即売である。買ってくださる方々に直接お渡しすることができて、来てよかったと思う。デザイン作業中、心の支えにしていたのは、私の地元でかつてサークル誌を作っていた人々の存在だ。彼らのことについて数年前、ある同人誌に書いた。彼らは誰に、どんな風に、サークル誌を販売していたんだろう、ということがふと気になった。それは彼らのサークル誌を読んでいてもあまり見えてこないことなのかもしれない。
途中、シフトの人が来ず、一人で店番をしていた時間帯が結構あって、かつ客足も遠かったのでぽつねんとしながら(嫌味に聞こえるかもしれないがそういうつもりはなく素朴に)働きアリの法則のことを考えていた。伊坂幸太郎の『オーデュボンの祈り』という小説に、自分がいるから事件が起こるんじゃないかと考える名探偵の命題が記されていて、私がいるから人がサボるんじゃないかというか、なんだかそんな気分だった(大学にいても思うし、母の職場の愚痴聞くと母もそうだなと思う、血だな)。とはいえ、推理小説のように殺人事件は起きず、(大学の場合とは違って)むしろ何かしらの交流(と酔っ払い)が生まれているのだから喜ばしく愉快なことである。自意識過剰だとは思うが、三分の理ぐらいはあるだろう。30%と書いてみると多いよな、とこの由来の諺を目にするとといつも思うので、三厘の理ぐらいは、と訂正しよう。韻を踏んでいるし謙虚なのでこちらの方がいい。
最近やや有名になり始めているある人から、お声がけいただければ書きますよ、と言われた。なんだその言い方は、とがっかりした。この同人誌は、半匿名の、書きたいことがある人たちが集まって書いているのだ。誰それといった有名な著者の名前をでかでかと表紙や目次や紹介文に書いたりなどしていない。何を見て/何が見えているんだろう。悪気なく善意で言ってくれたのはわかる、がむしろそれこそが、というあれである。いやはや。腹が立ったし減ったし人に酔ってきたのでケバブ丼を探しに外に出た。
東京にはケバブ丼のあるケバブ屋がたくさんあっていいなと思う。東京に行くと、人と食べる時以外は、ケバブ丼ばかり食べている。福岡、というか天神にもケバブ屋はあるが、まず丼がなく、半屋外の即席的な感じではないし、近頃はあの回るケバブグリルではなくふつうに焼いて作るようになっていた。東京が羨ましいと思うのはその一点だけである。席のない店しか見当たらず、その辺の路上に座って食べた。辛口がだいぶ辛くて、中辛ぐらいにしておけばよかった。
会場に戻って、ずっと見たかったクルーのライブを見た。パフォーマンス自体はかっこよかったのだけれど、もっと長い時間、でかい音、でかい低音で聴きたかった。その分というかラップがはっきりと聞こえ、リズムキープやマイクに声をうまく乗せる発声、発音の巧みさを痛感できたのは、それはそれでよかったのかもしれない。三人組だが一人は映像担当なので演奏自体は二人だった。(STUTSのような場合があるのでクルーとして)サンプラーの生演奏+ラップという組合せは何気に初めて見たかもしれない。ドラムは叩いていたが、上ネタとベースはどうしているんだろうかと気になった。できないわけではないがやる人いないよな、そういえば、とryo takahashiの10年前ぐらいの動画を思い出した。
まだイベント自体は続いていたけれど、翌日は午前中から予定があるため、始発の飛行機で帰らなければならず束の間の会食ののち離脱。ラブホ街を迷子になりながら、ネカフェを探す。キャッチのお兄さんに何かお探しですかと聞かれて、ネカフェを探しています、と答える。うちの店で寝れますよ、と言われ、4時間でいくらですか、と聞こうかと一瞬思ったがやめた。二人目のキャッチのお兄さんが親切で、自遊空間の場所を教えてくれた。寝る前に楽しいことどうですか、とは言われたけれど。カラオケの看板を持ったお兄さんとエレベーターに乗って先に降りる。会員カードを忘れたので作り直す。身分証をスキャナーにかざすと、どこか遠くの人がそれを認証してくれる。24時間それだけをやっている人がいるのか、AIのどちらなんだろうと思いながらマットレスの完全個室へ。部屋に入ると身体が緩んだのか咳が止まらない。完全個室とはいえ隣の人に申し訳ない。
会いたかった人と会えたり会えなかったり、話したかった人と話せたり話せなかったりした。もっと話したいことも生まれた。まあでもまたきっと会えるしなと思えること、そういった場が用意されていることは本当にすごいことだ。私の研究や生活を気にかけてくださる方々がいてくれて、大変ありがたかったし励みにもなった。明日以降きっと反動はあるだろうけれど、総じて来てよかったと一日を振り返りながら、ドリンクバーで水を汲み、咳止めの漢方薬を飲んで横になった。